既存の持分の定めのある医療法人から定款変更を行い、持分なし医療法人へ移行しようと考えています。移行をする場合、課税上の問題があると聞きましたが、どのような問題がありますか?

移行時の課税問題で税負担が生じるケースはいくつかあります。

【1】持分を放棄する社員の課税
 持分を放棄した社員は、財産権を放棄するだけであり、課税上の問題は生じません。
 これについて、みなし譲渡課税の対象になるのでは?と危惧する見方もありますが、実務上は適用となりません。国税庁課税部長回答では、「出資持分の放棄については、株式の消却と同様、譲渡性が認められないため、譲渡所得課税は生じないものと解される。」示されています。

【2】医療法人に対する課税
①医療法人に対する法人税課税
 持分なしの医療法人へ移行するため、社員全員が持分の放棄をした場合には、その医療法人には経済的利益が生じて「受贈益課税」など法人税が課税されるのではないかとの疑問が生じます。この点、平成20年度の税制改正において、移行の際の法人税課税はないことが明らかにされました。

②医療法人に対する贈与税課税
 贈与税は、通常個人に対する課税ですが、例外的に許人が納税義務者となることがあります。医療法人の場合、持分なしの医療法人へ移行するため、社員全員が出資持分を放棄した場合、この取扱いが適用されることがあります。
 具体的には、「その医療法人の出資者が、その出資持分を放棄したことにより、出資者の親族等の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められた場合は、その医療法人を個人とみなして贈与税を課税する。」というものです。この場合、「負担が不当に減少」する結果となるかどうかがポイントとなります。

※「負担が不当に減少する」結果について、贈与税課税がされない場合について規定されています。
 そのなかで、医療法人に関するものは以下のとおりです。
・医療法人の運営組織が適正であること
・同族親族等関係者が役員等の総数の3分の1以下であること
・医療法人関係者に対する特別利益供与が禁止されていること
・残余財産の帰属先が国、地方公共団体、公益法人等に限定されていること
・法令違反等の事実がないこと